はらひれさんの湖

地方怪談,短編怪談はらひれさん,夜中の湖,怪物,日本のホラー,深夜の恐怖,湖の怪物,湖の怪談,湖の怪談話,田舎の伝説

僕の地元、○○県には大きな湖がある。そんなに綺麗な水じゃないけど、魚がいて、釣りをしてる子どもやおじさんがちらほらいるような、のどかな田舎の風景だ。湖の周りは広くて、みんな離れた場所で釣りをしたり、散歩をしている。平和そのもの、特に怪しい噂が立つような場所じゃない。

でも、幼い頃から親にひとつだけ厳しく言われていたことがある。それは、「夜12時から1時の間は絶対に湖に近づくな」ということだ。「はらひれさんが出るから」と。はらひれさん? はらひれさんってのはどうやら人魚らしい。当然そんな話を信じるわけもなく、どうせ親が子供が夜中に悪さしないように言ってる作り話だと思ってた。

高校生になって、少しやんちゃになった僕は、夜中にこっそり家を抜け出して煙草でも吸おうと思った。静かな場所がよかったから、自然と湖の近くまで足を運んだ。人気もなく、風が吹く音だけが聞こえる夜の湖。時間はちょうど12時を過ぎていた。

そこで見たんだ。奴を。

はらひれさん、なんて可愛らしいものじゃなかった。目の前にいたのは、身長5メートル以上はあるんじゃないかと思うほどの巨大な泥の塊のような人型だった。真っ黒でどろどろしていて、その姿は人魚なんておとぎ話のようなものとは全然違った。湖の浅瀬で、まるで子供みたいに水をぱしゃぱしゃして遊んでいる。奴が動くたびに水しぶきが上がり、どろどろの体が揺れるたびに、湖の深さすらわからなくなるほど巨大に感じた。

「やばい、こっちに気づかれたか?」そう思った瞬間、奴の黒い目が僕に向けられた。襲われると思って逃げようとしたが、なぜか奴の方がびっくりしたような表情を浮かべたんだ。そして、低く響く声で「はらひれー」なんて奇妙な声を発すると、静かに湖の底へ沈んでいった。

次の日、親にも友達にもこの話をしたけど、誰も信じちゃくれない。「そんなバカなことあるわけないだろ」と笑われた。でも、僕は知っている。あの夜見たものは現実だった。はらひれさんは、本当に湖にいる。

▼ 関連記事

「輪っかのおまじない」
 ⇒ 祖父から伝わった不可解なまじない。信じるか信じないかで変わる未来

「当たりを引く男の子」
 ⇒ 小さな駄菓子屋で不思議な「当たり」を繰り返す少年の正体とは?

「私は花子じゃない」
 ⇒ “定番の怖い話”の裏側にある、誰も語らなかった事実