明治時代の奇妙な精霊との出会い
それは、明治時代のとある村での出来事だった。主人公の名は新太郎。若くして両親を失い、江戸から離れた寒村で働き口を探していた。仕事を求めてたどり着いたその村は、山深く、冬の寒さが厳しい場所だったが、新太郎はそこで力仕事に従事しながら生計を立てていた。
ある晩、新太郎は山中で働いていると、木々の間から異様な気配を感じた。静かな森にかすかに響く音楽のような音が漂っていた。気味が悪くて立ち去ろうとしたが、どこからともなく囁くような声が耳に入ってきたのだ。
「お前、力が欲しいか?」
驚いた新太郎が周りを見渡すと、そこには一人の女が立っていた。白い着物に包まれ、青白い顔で微笑んでいる。新太郎は驚きながらも、自分がとても疲れているせいかと思い、その場を離れようとしたが、女がすっと手を差し出してきた。彼女の手のひらには小さな石があり、淡く輝いているように見えた。
「この石を握りしめるのです。そうすれば、望みが叶う」
女の言葉に従い、新太郎は恐る恐るその石を手に取った。すると瞬間、強烈な力が体に満ち溢れるのを感じた。足元から大地に根を張るような、異常な力が湧いてくる。それは、今までに経験したことのない感覚だった。
不思議な力
その日から、新太郎の仕事は変わった。どんなに重いものも一人で運べるようになり、村の者たちから称賛されることが増えた。彼は次第にこの力に頼り切るようになり、周囲から頼まれることも増えていった。しかし、その力には一つ奇妙な制約があった。
「夜明けまでに戻らなければ、すべてを失う」
女が新太郎に渡した石には、そんな条件がつけられていたのだ。新太郎はその制約を守り、夜になると必ずその石を握りしめて眠りにつくことにした。
しかし、ある日のことだった。夜中に激しい嵐が吹き荒れ、村の倉庫が崩れそうだという知らせが届いた。村の人々からの頼みを受け、新太郎はすぐに現場へ向かい、嵐の中で重い木材を抱え、倉庫の補強にあたった。嵐が収まりかけた頃、彼はようやく仕事を終え、朝日が昇る前に家に戻ることができたと安堵した。
石の変化
しかし、その夜、新太郎が石を手に取ると、いつもと違う感覚が走った。石がかすかに震え、冷たい感触が指先に広がっていく。石の色も少しずつ暗く濁ってきたのだ。新太郎はその違和感を抱えたまま眠りについたが、翌朝には体の異変に気付いた。いつもの力が体中から抜け落ちているのだ。
その日から、新太郎の体は徐々に衰えていった。次第に仕事もままならなくなり、村の者たちも彼を心配して見守るようになった。しかし、彼がどんなに石を握っても、かつての力は戻らなかった。日に日にやつれ、体が痩せ細っていくばかりだった。
ある晩、新太郎は力を取り戻そうと必死にその石を握りしめ、女が現れた森へ向かった。しかし、いくら歩いても、山道はどこまでも続き、道に迷ったかのように暗闇の中でさまよい続けた。
女との再会
ようやく明け方近くになり、霧の中であの女が再び姿を現した。新太郎は息を切らしながら女に詰め寄り、「力を返してくれ!」と叫んだ。女は相変わらず冷たい微笑みを浮かべながら、新太郎に言った。
「お前は、私との約束を破った。夜明け前に戻らなければならなかったのに、それを忘れたのだ」
新太郎は必死で謝罪し、再び力を与えてくれるよう懇願したが、女はただ首を振り、言葉を続けた。
「この石は、お前が必要とした力を与えただけ。その代償として、お前から命の火を少しずつ奪ってきたのだ」
女の言葉に愕然とする新太郎は、もはや立ち尽くすことしかできなかった。彼の目の前で女は薄く笑い、霧の中へと消えていった。その後、新太郎の姿を見た者は誰もいなかった。村人たちは彼が突然姿を消したことを不思議に思ったが、まるで何もなかったかのように、彼の存在は次第に村の記憶から薄れていった。
後日談
それからしばらくして、村の祭りの夜、若者たちが山道で奇妙な石を見つけた。石は青白く光っており、誰もが手を伸ばして触れようとしたが、石には冷たい気配が漂っていた。村の長老は、その石を見て「触れてはならん」と厳しく言い聞かせたという。
石は再び山の奥深くに隠され、二度と日の目を見ることはなかったが、村人たちの間では「新太郎の石」として恐れられ、誰もがその山道を避けるようになったという。
















