肝試しで訪れた廃モールの怪奇体験「マネキンの館」
友人たちと肝試しに行くことになったのは、東海地方の山奥にひっそりと残る、あの「マネキン家族のモール」。40年ほど前は観光地だったらしいが、今は誰も近づかない廃墟だ。ネットの書き込みや地元の噂で「深夜にマネキンが動く」「家族ごっこをしている」と囁かれていて、その不気味な話にどうしても興味を惹かれた。
真夜中、車を走らせてたどり着いたその場所は、かつての華やかさとはほど遠い静けさに包まれていた。ぼろぼろになった看板や割れたガラスの窓が不気味な影を落としている。車のライトを消すと、辺りは真っ暗になった。月の光も届かず、かすかな風が草を揺らしている音だけが耳に響く。友人たちと小声で冗談を言い合っていたが、建物に足を踏み入れる瞬間、全員が自然と無口になった。
モールの中は、外よりもさらに静まり返っていた。かつて賑わったであろう場所は、薄暗い通路や雑多に積まれた古びた商品が放置され、時間が止まったように感じた。空気が重く、ただただ息苦しい。懐中電灯で照らしながら進むと、床にはガラスの破片や落ち葉が散らばり、靴がキシキシと音を立てる。これだけで十分不気味だった。
突然、「カチャカチャ…」と何かがぶつかり合う音が聞こえた。「…今の聞こえたか?」友人の一人が震え声で言った。誰もが音の方向を探りながら、足を止めた。その音はまるで、硬いもの同士がぶつかっているような音で、どこか金属的な響きがあった。自分たちは立ち止まっているはずなのに、音だけが不気味に響いてくる。背中に冷や汗が流れるのを感じた。
フードコートに差し掛かったとき、暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる影が見えた。4体の人形が、異様な姿勢でそこに立っていたのだ。それは、よく見かけるマネキンの姿ではなく、どこか不自然で、スラッとした体にまるで関節がかみ合っていないような曲がり方をしている。腰がほとんど曲がらず、上半身がカチリと固定されているように見える。
それが「マネキン家族」だと気づいたとき、全身がすくみ上がった。父親のマネキンは椅子に座り、母親のマネキンが隣に立って手を前に差し出している。子供たちのマネキンは互いに向かい合うようなポーズで、家族団らんの一場面を演じているかのようだった。その場面がかつての記憶から再現されているかのようで、不気味さが一層増した。
声が出せないまま、その光景を見つめていると、再び「カチャカチャ…」と音が鳴り響いた。どうやらマネキンたちの間で手や体が触れ合っている音らしい。しかし、怖いのはその音が聞こえているのに、マネキンたちは動いていないように見えることだった。じっと見つめたまま、その場に立ち尽くす自分たちの耳に、音が不規則に響いてくる。
「…帰ろう」誰かが小さく言った。しかし、動けなかった。ふと視線を移した瞬間、母親のマネキンがこちらに向かって首を曲げたのを見た。まるでゆっくりとした動作で、カクンと曲がり、無表情な目がこちらを見ている。全身が冷たくなり、瞬間、誰かが「逃げろ!」と叫んだ。友人たちと一斉にその場を離れようとしたが、足が重く感じた。
走り出すと、カチャカチャという音が背後から近づいてくる。後ろを振り返ると、マネキン家族の一人がこちらを向いて動き出していた。歩き方はぎこちなく、しかし確実にこちらに近づいてきているのがわかる。腕を伸ばし、関節がカチカチと音を立てて動く。その姿を見ただけで、恐怖で膝が震えた。
その瞬間、ふと目の前に母親のマネキンが立ちはだかった。まるで私たちの行く手を阻むように立っており、体を横に向けるとまた不自然に動き、他のマネキンたちと同じように音を立てていた。どうにかして通り抜けようと試みたが、なぜか足が震えて思うように動かない。彼女たちは家族ごっこをしているのだろうか、なぜかその場を守ろうとしているかのようにも見えた。
友人たちが再び出口を目指して走り出したとき、私もやっとの思いで体を動かし、その場から離れた。何度も振り返ったが、マネキンたちはまた元の場所に戻っているようだった。しかし、その「カチャカチャ…」という音が耳から離れない。
モールを抜け出し、外に飛び出すと、冷たい風が顔に当たって我に返った。廃墟のモールは静まり返り、何事もなかったかのように夜の闇に包まれていた。しかし、あの恐ろしい体験は現実だったのだ。友人たちと顔を見合わせ、全員が無言でうなずき合った。
地元で後に聞いた話では、このマネキン家族はかつてここを訪れた観光客の“残された記憶”が宿ったものだという。かつての家族連れの笑い声や思い出がこの場所に留まり続け、夜な夜なモールの中で家族の役割を再現しているのだろうか。その光景を見てしまった人間は、二度とその場所に戻りたくないと口を揃える。
今となっては、もうあのモールには近づく気になれない。家族ごっこを続ける彼らの空虚な姿が、目に焼き付いて離れない。カチャカチャという音が耳に響くたび、背筋が凍りつくような気持ちになるのは、自分だけで十分だ。
















