奇妙な高報酬の裏バイト「清掃員」
こんな話を聞いたのは数年前のことだった。俺は当時、フリーターで、バイトを転々としてた。普通のバイトじゃ生活が厳しく、ネットや噂話の裏バイトに興味を持つようになってた。そんな時、「裏バイトで稼げる」という噂が流れたんだ。報酬は1日で10万円。しかも、仕事内容は簡単な清掃作業だと。
俺の友人のタケルがこのバイトを実際にやってみたって言うから、詳しく話を聞くことにした。タケル曰く、求人はネットの裏掲示板にポツンと書かれていたらしい。
「誰でもできる簡単作業、高報酬、夜間勤務」
条件はとてもシンプルで、掲示板に書かれていた電話番号に連絡すると、すぐにバイト内容について説明を受けたそうだ。説明してきたのは無愛想な男で、場所や時間、そして仕事内容を簡単に教えてくれた。
「まあ、清掃作業だから簡単だよ。ホルマリンの使用もあるけど、健康に害はないし心配いらない」
ホルマリンを使う清掃作業という言葉が引っかかるが、タケルは大して気にせず了承してしまった。高報酬に釣られたんだな、と俺は思ったけど、10万円って額が大きいと、つい何かに目をつぶりたくなる気持ちは分からなくもなかった。
バイト当日、指定された場所に行くと、それは郊外にある薄暗い倉庫だった。昼間はそれなりに人がいそうなエリアだったけど、夜になるとほとんど人通りがなく、倉庫も人気がない。
「これでいいのか…?」
不安が頭をよぎったが、タケルはそのまま倉庫に足を踏み入れた。中には古びた医療用具や清掃道具が無造作に置かれており、薬品の匂いが漂っていた。そこで待っていたのは、一人の中年の男。顔色が悪く、疲れた様子だったが、何の感情も見せずにタケルを迎えた。
「これが道具だ。指示通りにやれば問題ない」
男は無表情で、ホルマリンの入った大きなバケツとブラシを手渡してきた。タケルは少し戸惑ったが、ただの清掃だと自分に言い聞かせ、倉庫内を確認するよう指示された。
倉庫の奥には、金属製の扉があり、タケルはそこに案内された。扉を開けると、そこには数体の遺体が並んでいた。見るからに長期間放置されたような腐敗が進んだものもあったし、比較的最近亡くなったばかりと思われるものもあった。
「おい…これって、清掃の仕事じゃないだろ…」とタケルは思ったが、男は淡々と説明を続けた。
「ホルマリンで洗浄してくれ。遺体の清掃が終わったら、報酬は支払う。気にしないことだ。黙ってやるだけでいい」
遺体の清掃…タケルの心臓が跳ね上がったが、もう後には引けなかった。報酬のことを考えると、なんとか作業を終わらせるしかないと、タケルは自分を奮い立たせた。
作業は淡々と進んだが、ホルマリンの匂いが倉庫内に充満し、息苦しさが増していく。遺体をホルマリンで洗うたびに、その無機質な感触が手に伝わり、タケルの精神は次第に削られていった。
「これで本当に10万もらえるのか…?」
タケルは作業を続けながらも、何かがおかしいと感じ始めた。作業が進むにつれて、どうにも異常な気配が漂い始めたのだ。
作業を終える頃、タケルは倉庫の奥にもう一つの扉があることに気づいた。その扉から、微かに何かが動く音が聞こえてくる。心拍が早まり、全身が緊張する中、タケルはその扉を開けるべきかどうか迷った。
だが、好奇心が勝ってしまった。
扉をそっと開けると、その中にはさらに大きな冷凍庫が並んでいた。冷凍庫の中には新たな遺体が収められているのが一目で分かった。
「なんだこれ…」
その時、背後からあの男が現れた。タケルに近づき、無言のまま冷凍庫の蓋を閉めた。
「もう終わっただろ。報酬を受け取って帰るんだ」
その男は冷たく言い放ち、封筒を差し出した。タケルはそれを受け取り、急いでその場を後にした。
帰り道、封筒の中を確認すると、確かに10万円が入っていた。だが、タケルの胸には一つの疑問が残った。あの遺体は一体何だったのか?そして、なぜこんな仕事が存在するのか?
それからしばらくして、タケルは再びあの裏バイトの募集を見かけた。今度は「簡単な清掃作業、健康被害なし、ホルマリンの使用あり」と書かれていた。
タケルは二度とそのバイトに手を出すことはなかったが、彼の心には未だにあの夜の記憶が鮮明に残っている。
なぜ、あの倉庫には遺体が存在し、ホルマリンで清掃する必要があったのか。そして、タケル以外に同じような経験をした者がいるのか…。
誰にも話せないまま、その記憶は今もタケルの中で生き続けている。
















