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隙間に住む彼氏

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ある日のこと、彼女は無断で会社を休んだ。いつもなら連絡もせずに休むことなんてない彼女に、同僚たちは少し心配し始めた。最初は「風邪でもひいたんじゃない?」とか「ちょっと休憩が必要だったんじゃないの?」と軽く話していたが、二日、三日と過ぎても彼女から音沙汰がなかった。

「さすがに、何かあったんじゃないか?」
心配した同僚たちは、何度も彼女に電話をかけた。LINEも送ってみたが、既読がつかない。彼女は普段SNSもそれなりに更新するタイプだったのに、それすらも完全に止まっている。

そして、一週間が経った。
「さすがにやばくない?」と心配がピークに達した同僚たちは、彼女のアパートを訪れることに決めた。

彼女の家に到着し、ドアをノックする。何度か叩いてみたが、返事はない。だが、妙に不気味なことに、部屋の電気はついているようだ。

「もしかして、中で倒れてるんじゃないか?」
誰かが冗談半分に言ったが、その可能性が頭をよぎった瞬間、皆の顔から笑いが消えた。

ふとドアノブを回してみると、施錠はされていなかった。おそるおそるドアを開けると、彼女がリビングのソファに座っていた。

「おい、大丈夫か?」
声をかけると、彼女はゆっくりと振り向いて、目が合った。

「…ああ、みんな…来てくれたんだ。」
彼女の声は、どこかぼんやりとしていて、覇気がない。いつも明るく、元気だった彼女が、まるで別人のようだった。

「一週間も連絡が取れなかったから心配したんだよ。何があったんだ?」
一人の同僚が訊いた。すると、彼女は曖昧な笑顔を浮かべ、ぽつりと呟いた。

「…外には出られないのよ。彼が…寂しがるから。」

「え?彼?おいおい、彼氏でもできたのか?」
みんなが顔を見合わせる。彼女は、あまり異性との縁があるタイプではなかったし、突然の「彼氏」の話に驚いた。

「いや、ここに誰もいないだろう?」
彼女の部屋は一人暮らし用のシンプルなワンルーム。見渡しても、確かに彼氏らしき人物はいない。

「いるよ…ちゃんと、いるの。」
彼女は視線を天井に向け、じっと見つめた。

「…上に、いるのよ。」
みんながその言葉にぎょっとして、天井を見上げた。しかし、そこには何もない。ただの天井だった。

「いや、誰もいないだろ?お前、大丈夫か?」
みんなが混乱する中、彼女は再び微笑んだ。その笑顔が、どこか不気味だった。

「彼はね…ずっと私のそばにいてくれるの。私が外に出ると、寂しくなっちゃうから…。もう、彼からは離れられないの。」
彼女の視線が天井から、隣の壁に移った。すると、壁の上から、なにかがゆっくりと降りてくるように見えた。

「な、なんだあれ…?」
壁の隙間から何かがじわりと覗いている。それは人の腕のように見えた。

「彼が…いるのよ。」
彼女の言葉が終わると同時に、その「腕」は壁から完全に伸び、何かが這い出そうとしているのがわかった。

「もう、彼としか一緒にいられないの。誰にも邪魔されたくないのよ。」
彼女は微笑んで、再び視線を壁に戻した。そこには、はっきりと人の影が見えていた。

驚きと恐怖で声も出せず、その場から逃げ出す同僚たち。後ろからは彼女の不気味な笑い声と、壁の影がじわじわと迫ってくる。

「もう帰れない。もう、どこにも行けないのよ…」
彼女のその言葉が、彼らの耳に残ったまま、誰も二度と彼女に会うことはなかった。

翌日、彼女のアパートは空っぽになっていた。家具も何もかもがすっかり消えており、彼女の姿はどこにもなかった。