ドカドカ男
俺が「ドカドカ男」の話を聞いたのは、地元に住んでるばあちゃんからだった。夕暮れになると、鉄鎧を着て、背中に大きなハンマーを背負った「ドカドカ男」が町を徘徊するんだってさ。
このドカドカ男、誰かに「ドカドカ」と声をかけさせるために現れるらしい。遭遇した人間は、どうしても「ドカドカ」って口にしなきゃいけないんだ。もし言わなかったら、そのハンマーで一撃を加えられてしまうって話。だけど、逆に自分から「ドカドカ」って言ってしまっても同じで、やっぱりやられるんだって。
ばあちゃんから聞いたときは、俺たちは中学生だった。友達と集まってばあちゃん家に泊まりに行って、怖い話を聞かされるのも一種のイベントみたいなもんだったんだ。だから、その「ドカドカ男」の話も「よくある怖い話だろ」くらいにしか思ってなかったんだけど…。
そんなある日の夕方、俺たちは地元の古い道を自転車で走っていた。日が沈みかけていて、空が少し赤く染まってたんだ。風の音がすごくて、時折「ゴォーッ」と不気味な音が鳴ってた。
「なあ、ばあちゃんが言ってたドカドカ男って、あの辺りに出るんだよな?」友達の一人が冗談混じりに言った。
「やめろって、マジで怖ぇから。」もう一人の友達がビビりながら笑った。
俺も軽く「そんなのいるわけないじゃん」と返して笑っていた。でも、そのとき、遠くの方から「ドカドカ…」と鈍い音が聞こえてきたんだ。
最初は風の音か何かだと思ってたけど、だんだん近づいてくる。その音はどんどん大きくなってきて、地面を踏みつけるような、重い音が響いていた。
「え、なにあれ…?」
音の方を見ると、夕日の中にぼんやりと見えるシルエット。鉄鎧の男が、自転車に乗ってこちらに向かってきている。背中には大きなハンマーが背負われていて、まさに「ドカドカ男」だった。
「嘘だろ…!」
俺たちは顔を見合わせて、一瞬のうちに全員で自転車を全速力で漕ぎ出した。後ろからは、あの鈍い「ドカドカ…」という音がどんどん近づいてくる。心臓がバクバクして、汗が滲んできた。
「マジで来てるって!どうする!?」
友達が叫びながら振り返る。でも俺は見たくもなかった。何かに追いかけられる恐怖で、無我夢中でペダルを漕ぎ続けた。
そして、その瞬間――
「ドカドカ…言え…」
ドカドカ男の声が耳に入った。友達が一人、パニックになったのか、「ドカドカ!」と叫んでしまったんだ。
「やばい、言っちゃった…!」
俺は振り返った。でも、何も起こらなかった。ハンマーが振り下ろされることもなければ、友達が何かに変わってしまうわけでもなかった。ただ、背中がぞっとするような感覚が走っただけ。
「どうなった…?」俺が息を整えながら友達に声をかけると、その友達は息を切らして振り返り、「わからん…でも、やばいと思う…」
それから俺たちは必死に自転車を漕いで、そのまま町を抜けた。家に着いたときには全員汗だくだったけど、誰も怪我ひとつしていなかった。
次の日、俺たちは恐る恐るその道を通った。でも、ドカドカ男の姿はなかった。何事もなかったかのように町は静かで、夕暮れの音だけが響いていた。
それ以来、俺たちは「ドカドカ」と口にすることを避けるようになった。ドカドカ男に遭遇しても、決して声をかけるな、言葉にするな。それがあいつに取り込まれる唯一の回避方法なんだと。
だが、一つだけ気になることがある。あの日、友達が「ドカドカ」と言った直後、ほんの一瞬、友達の後ろにハンマーを持った影が見えた気がするんだ…。