羊飼いの村で起こった厄災
昔々、今では名前すらも忘れ去られた小さな村があった。その村は、羊を多く飼っていることで知られており、村人たちは貧しいながらも、羊毛や乳を売って細々と暮らしていた。だが、ある年、村中に恐ろしい噂が広がった。「羊人間が出る」というものだ。
羊人間――その名前を聞くだけで、村人たちは不安に襲われた。羊の体に人間の顔を持つ怪物が夜な夜な現れ、村に災厄をもたらすという。最初にこの話を広めたのは、村外れに住む年老いた農夫、源蔵だった。ある晩、彼が飼っていた羊が突然おかしな行動を取り始めたのだ。
源蔵「おい、あの晩は本当にぞっとしたんだ。羊が急に立ち上がって、じっと俺を見つめていたんだ。だけど、その顔が……」
村人A「その顔がどうしたんだよ?」
源蔵「まるで人間の顔をしてたんだよ!それに、あいつが俺に話しかけてきたんだ……」
村人B「何を言ってたんだ?」
源蔵「『この村には近いうちに大きな災いが起こる』ってな……」
村人たちは息を飲んだ。誰もが寒気を覚え、その場に沈黙が広がった。村の古老たちは、この話を聞くとさらに険しい顔をした。村には昔から「異形のもの」がいるという伝説があり、古老たちはその言い伝えを心に秘めていたが、それを口にすることはなかった。
噂はすぐに村中に広がり、特に若い者たちは怯え、夜になると家に籠り、外に出ようとはしなくなった。しかし、誰も実際に羊人間を見た者はいなかった。源蔵の話がただの妄想であればよかったのだが、村では次々と不吉な出来事が起こり始めた。
まず、羊が次々に不自然に死んでいった。朝になると羊たちは冷たくなっていて、死因がまったくわからない。村人たちは恐怖に駆られ、「羊人間の呪いだ」とささやいた。また、収穫の時期になると、畑の作物が枯れ果て、村全体に不安が漂い始めた。
そして数日後、源蔵が再び村の広場に現れた。彼は全身に泥と血を浴び、顔は青ざめ、震えながらこう告げた。
源蔵「羊人間がまた出た……あいつは村を滅ぼすと言ってた……もう俺は助からない……」
その言葉を最後に、源蔵はその場で息を引き取った。村は一層の恐怖に包まれ、羊人間の話がさらに信じられるようになった。
源蔵の死後、村ではさらに奇怪な現象が続いた。夜になると、羊の遠吠えのような声が聞こえたり、羊飼いがいなくなったり、村人たちが原因不明の病で倒れることが相次いだ。村全体が暗い影に覆われていったが、誰も羊人間を目撃することはなかった。
そんな中、若い農夫の太一は一つの決心をした。
太一「こんな噂でビクビクするのは馬鹿らしい。俺がその羊人間ってやつを見つけてやる!」
夜中、太一は村外れの羊小屋へ向かい、羊人間の姿を探し始めた。月明かりの下、羊たちは静かに眠っているようだった。だが、ふと小屋の奥で不気味な気配を感じた。振り返ると、そこには半分が羊、半分が人間の姿をした異形の存在が立っていた。
その姿を目にした瞬間、太一の全身に冷たい汗が流れた。怪物は一言も発せず、ただ太一を見つめていた。太一は一歩後ずさりしようとしたが、その場から足が動かなかった。
太一「なんだ……あれ……」
すると、怪物は突然不気味な叫び声を上げた。
羊人間「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その声は村中に響き渡り、太一は恐怖のあまり腰を抜かし、その場から逃げ出した。
太一が村に戻り、羊人間の姿を見たことを話すと、村人たちは恐怖で震え上がった。彼の話を信じる者もいれば、彼を狂人扱いする者もいた。しかし、太一が語った恐ろしい出来事は、現実となって村に襲いかかった。
翌朝、村に大きな嵐が押し寄せ、川が氾濫し、村中の家屋が次々と倒壊した。村人たちは避難しようとしたが、すでに手遅れで、田畑も家畜もすべて水に流されてしまった。多くの村人が命を落とし、生き残った者たちは村を捨てるしかなかった。
その混乱の中、太一は村を離れる際に、ふと振り返った。すると、村の中心に羊人間が立っていた。怪物は、またじっと太一を見つめていた。そして、その顔には奇妙な微笑みが浮かんでいたという。
その後、村は廃村となり、羊人間の噂も次第に語られなくなった。だが、今でも古老たちは密かにその話を伝えている。あの羊人間の予言は、まだ終わっていないのかもしれない――。
















