果てしない川の渡し守
昔々、ある小さな村がありました。村は川のほとりに位置していて、その川を渡らないと町に行けないという立地にありました。川は穏やかで、長く静かに流れていましたが、橋がなく、渡し舟が唯一の交通手段でした。村人たちはこの渡し舟を利用して川を渡り、生活していました。
渡し舟を運営していたのは、「渡し守」と呼ばれる男です。彼は村でも特に寡黙な存在で、誰も彼の本当の名前を知りませんでした。いつからか彼が渡し守をしていることも不明で、渡し舟は常に朝から夕方まで川を行き来していました。
ある日、村に若者の一団がやってきました。彼らは都会から引っ越してきたばかりで、仕事を探していました。村は古く、都会とは全く異なる雰囲気でしたが、若者たちはそれを新しい経験と捉え、村での生活を楽しんでいました。
その中でも、特にリーダー格だったのは「ヒロキ」という青年でした。彼は常に好奇心旺盛で、新しいことに挑戦することが好きでした。彼はある日、村の老人たちから「渡し守」の不思議な噂を聞きました。
「渡し守は不老不死だという噂だよ。誰もあの男が年を取った姿を見たことがないし、彼の代わりに渡し舟を漕いだ人間もいないんだ。」
「いや、もっと奇妙な話があるよ。夜中に渡し舟に乗ると、川の向こう側に辿り着けないと言われているんだ。行っても、いつも同じ場所に戻される。」
ヒロキはその噂に興味を惹かれ、仲間たちと渡し守の秘密を探ろうと決心しました。彼は友人たちに言いました。
ヒロキ「おい、明日俺たちであの渡し守の秘密を暴こうぜ!夜中に舟を出して、川の向こう側を確認しよう。」
友人たちは初めは渋っていましたが、ヒロキの勢いに押されて、一緒に行くことに同意しました。
その晩、ヒロキと仲間たちは渡し舟の小屋に忍び込み、舟をこっそりと出しました。川は暗く、月明かりだけが頼りでした。ヒロキは興奮気味に言いました。
ヒロキ「これで川の向こう側を見に行こう!何も起こらないだろうけど、ただの噂だって証明してやる。」
舟は静かに川を進みましたが、何かがおかしいと仲間たちは感じ始めました。川の向こう岸に向かっているはずなのに、いつまで経っても辿り着かないのです。
友人A「ヒロキ、おかしくないか?ずっと漕いでるのに、岸が見えない。」
ヒロキ「落ち着け、まだ途中だよ。ただ流れが遅いんだ。」
しかし、時間が経つにつれて、焦りが彼らの中に広がり始めました。舟はいつまでも川の真ん中を漂っているかのように、進んでいる感覚がありませんでした。
友人B「これはまずい…本当に川の向こうに行けないのかも…」
ヒロキ「バカな!そんなのただの作り話だ!漕ぎ続ければ必ず着くんだ!」
ようやく岸に辿り着いた彼らは、目の前に古びた石造りの城の廃墟を見つけました。周囲は不気味なほど静かで、村の穏やかな雰囲気とは全く異なる場所でした。石の門には、見たことのない古代文字が刻まれていました。
ヒロキ「おい、見ろよ!こんな城があるなんて話、誰もしてなかったよな。」
友人A「気味悪いな…本当に行くのか?」
ヒロキ「当たり前だろ!ここまで来たんだ、何かを見つけなきゃ帰れないだろ!」
彼らは城の中に足を踏み入れました。中は広大な廊下と、朽ちかけた家具が並んでおり、まるで時が止まったようでした。彼らはしばらく歩き回ったものの、どの部屋も空っぽでした。
しかし、奥の方へ進むと、一つだけ重厚な扉が見えてきました。扉には古い鎖が掛けられていましたが、ヒロキはためらわずにそれを開けました。
その扉の先にあったのは、一つの大きな石棺でした。石棺の上には「渡し守」という文字が刻まれており、そこには彼の名前や年齢、生まれた日までが詳細に記されていました。
友人B「これ…渡し守の墓か?そんな馬鹿な…だって、彼は今も川を渡してるんだぞ?」
ヒロキ「分からない…でも、これは間違いなく渡し守の墓だ。」
すると、突然石棺の上にあった蝋燭が風もないのに一斉に揺れ始めました。ヒロキたちは恐怖に駆られ、その場から一刻も早く逃げ出すことにしました。
ヒロキたちは城から逃げ出し、再び舟に乗り込んで川を渡り始めました。彼らは息を切らしながら、ひたすら舟を漕ぎ続けました。何度も後ろを振り返りましたが、誰かが追いかけてくる様子はありませんでした。
友人A「やっと帰れる…もう二度とこんなことはしない…」
友人B「ヒロキ、お前本当にこんなこと思いつくなよ…」
ヒロキ「分かった、もうしないよ…でも、あれは一体何だったんだ…」
彼らはどうにかして村に戻りましたが、その夜は誰も眠ることができませんでした。
翌朝、ヒロキたちは恐る恐る川に向かいました。そこには、いつもと変わらぬ渡し守が立っていました。彼は無言で舟を漕ぎ、村人たちを川の向こう岸へ渡していました。
ヒロキ「昨日のことは夢だったのか…?」
友人A「いや、間違いなくあったはずだ…あの墓…」
しかし、渡し守は何も言わず、ただ淡々と仕事を続けていました。彼らはその後、二度とその川を渡ろうとはしませんでした。そして、あの不気味な城と渡し守の墓のことを語ることもなかったのです。
渡し守の秘密は、今も川の向こうに静かに眠っています。