続ようこそエイズの世界へ
俺の名前はS。これは、誰にも話したことがない話だ。話せばお前もおかしくなるかもしれない。だけど、もう黙っていられないから、ここに書き残す。
数年前、あの話を聞いた。噂話だと思っていた「ようこそエイズの世界へ」。聞いたことがある奴も多いだろう。クラブや海外旅行で一夜を過ごした相手に感染させられ、翌朝目が覚めると、部屋の鏡や壁に赤い文字でそのメッセージが残されているってやつだ。くだらない都市伝説だと思っていた。
でも、それが俺に起こったんだ。
当時、俺は海外旅行に行っていた。楽しむだけのつもりだった。バカ騒ぎして、クラブで知らない女と一晩を過ごした。それだけだ。朝、目が覚めると、ベッドの隣に置かれた小さなメモ。それに書いてあったんだよ。「ようこそエイズの世界へ」って。
初めは笑った。あぁ、これがあの有名な都市伝説か、ってな。でも、徐々に血の気が引いていった。妙にリアルな恐怖が体中を駆け巡っていったんだ。悪い冗談だと思おうとしたけど、なぜかその時から体がゾワゾワしだして、背筋が冷たくなっていった。
俺はそのメモを燃やして、誰にも言わずに帰国した。検査に行く勇気もなかった。そんなもの、受けたくもなかった。だけど、あの日から何かが変わってしまった。
数週間後、異変が起こり始めた。
何もないはずの部屋で、誰かの声が聞こえるんだ。最初は寝ている時だけだった。「お前はもう手遅れだ」「逃げられない」「全てが遅すぎる」って囁き声が、耳元でこだまするように聞こえた。幻聴だと思いたかった。無視しようとしても、声はどんどん大きくなり、はっきりと俺に語りかけるようになった。
夜になると、ふと気づくと家中の鏡や窓に「ようこそエイズの世界へ」と赤い文字が浮かび上がるようになった。それがどうやって現れるのかはわからない。俺が鏡に映るときだけ、背後にその文字が見える。だけど振り返ると何もない。
そんなことが数ヶ月も続くと、俺は精神的に追い詰められていた。何もかもが幻覚だと自分に言い聞かせながらも、俺は疲れていた。ある夜、いつものように誰かの視線を感じながら眠りに落ちようとしていた。すると、夢の中で何かに追われている感覚があった。
目が覚めると、俺のベッドの足元に、例の女が立っていた。クラブで出会ったあの女だ。俺の方をじっと見つめて、口元には不気味な笑みを浮かべていた。その顔は明らかに異常で、目が何かに取り憑かれたかのように光っていた。口を開くと、低い声で言った。「もうすぐお迎えが来るよ」
それから、足元を見て驚愕した。ベッドのシーツに赤い文字で「ようこそエイズの世界へ」と書かれていた。今度はリアルだった。目の前で血のように赤くにじんでいるのがわかった。
俺は叫びながら飛び起きた。何が現実で何が夢なのか、もうわからなくなっていた。
それから、俺は誰とも会わなくなった。周りの人間が皆、俺のことを知っているような気がして、誰の目も見られなくなった。俺はずっと一人で家に閉じこもり、日に日に痩せ細っていった。
そして、最後に奴が来たんだ。もう鏡の中でしか見えなかったあの女が、今度は家の中に現れた。薄暗い部屋の片隅でじっと俺を見ている。彼女の顔はどんどん歪んで、叫び声を上げると共に、俺の体に飛びかかってきた。