誰もいないはずの施設
「こんなところに施設があるなんて、マジで知らなかったわ…」
悠馬は自分たちが立っている謎の建物を見上げながらつぶやいた。周りは鬱蒼とした木々に囲まれ、人の気配などどこにもない。いつからここにあるのかすらわからないが、確かに建物は新しく見える。
「なあ、ちょっと探検してみようぜ。大学生のうちにしかこんな冒険できないだろ?」
亮太が笑いながら、リュックの中から懐中電灯を取り出した。後ろには、少し不安そうな顔をした涼子がいる。彼女は心配性だったが、彼氏の健太の後押しで、今回の探検に参加することになった。
「どうせ中は空っぽだよ、何もないだろ。けど、せっかく来たんだからさ、ちょっと見ていこうぜ」
健太も笑って、軽く肩をすくめた。彼の言う通り、施設の外観は無駄に広く、内部はおそらく空だろうと皆は思っていた。
4人は施設の扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。白い壁が無機質に続き、照明は所々点灯しているが、どこか薄暗い。用途が全く分からない。何もない廊下がどこまでも続き、幾つかの部屋は鍵がかかっていて入れない。
「なんだよこれ、普通こんなところ放置されるか?綺麗なのにさ。」
亮太が不機嫌そうに言いながら、床を蹴った。
「まあ、探してみようよ、何か面白いものがあるかもよ」
健太は前向きだった。しばらく施設を探検してみるが、広さが異常で一向に出口に戻る気配がない。途中で食事を取ったりしながら、彼らは何日もかけて探検を続けた。
ある日、事件は起こった。
「悠馬、大丈夫か!?」
健太の声が施設内に響き渡った。悠馬が突然、床に足を踏み抜き、足が挟まれてしまったのだ。どうにも抜けない。
「くそ、抜けない、動けねえ…」
悠馬が苦しそうに叫びながらもがくが、足は床にがっちりと挟まってしまっていた。
「やばい、誰か助け呼ばなきゃ!涼子、一緒に手伝ってくれ!」
亮太が慌てて涼子を呼び寄せるが、何をしても動かない。
「どうしよう…誰もいないし…」
涼子の顔は青ざめていたが、その時、突然、床の下からかすかな声が聞こえた。
「…なんだ、今の…?」
亮太が耳を澄ませた。
「…人の声…?」
健太も驚いた顔で床に耳を当てる。確かに、床の下から複数の声がする。しかし、言葉が聞き取れず、何を言っているのか分からないが、激しく怒っているような、騒いでいるような音が聞こえてきた。
「おい、これ、やばいんじゃねえか…」
亮太が不安そうに呟く。
「とにかく、家に戻ってツールを持ってこよう。悠馬の足を外すために何かがいる」
健太は決断した。
「涼子、ここにいてくれ。俺たちはツールを取りに行ってくる。」
健太と亮太は二人で施設の外へ出て、道具を取りに急いだ。
一人残された涼子と、足を挟まれた悠馬。
「怖いよ、早く帰ってきて…」
涼子は怯えた声で呟いたが、次の瞬間、悠馬が突然叫び始めた。
「痛い!誰かいる!切られた!!」
悠馬は大声で泣き叫んだ。
「え!?何!?どういうこと!?誰もいないじゃん!」
涼子はパニックに陥った。
「俺の指が!感覚がねえ!誰か切ったんだよ!」
悠馬は血の気の引いた顔で、恐怖に震えていた。
「どうすればいいのよ!!私、どうすればいいのよおおおおおおおお!」
涼子の叫び声が施設内に響いた。
しばらくして、健太と亮太がハンマーを持って戻ってきた。二人は必死で床を破壊し、悠馬をようやく解放した。
「くそ、間に合ったか…?」
亮太が悠馬を引き上げながら言ったが、悠馬の足を見た瞬間、全員が言葉を失った。
「え…足が…」
健太の顔が青ざめる。
悠馬の足の親指と人差し指が、跡形もなく切断されていたのだ。
四人は必死でその場を離れた。施設から離れるにつれて、彼らの心に刻まれた恐怖が増していった。
「もう、あの場所には二度と行かない。解明なんてしたくない。」
健太が息を荒らしながらつぶやいた。
「何があそこにあるのかなんて、知りたくない…」
四人は逃げるように車に乗り込み、施設を後にした。それ以来、あの場所に行こうという話は一切出なくなった。