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あかぐる様の夜

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私の町には古くから「あかぐる様」というものがいると伝えられている。あかぐるとは、昔の言葉で「さまよう」という意味らしい。特に満月の夜には、あかぐる様が姿を現すとされているが、私はそれを見たことがない。というのも、偶然にも満月の夜に外出することはこれまで一度もなかったからだ。

しかし、そんな話を信じることもないまま、私は普通の生活を送っていた。

あの日、私は初めての彼氏とのデートで、夜遅くまで外にいた。楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、気づけば夜は深まり、満月が空に輝いていた。彼氏は「こんな遅くなったから、車で送って行くよ」と優しく申し出てくれ、私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

彼の車に乗り込み、私は彼と楽しい話をしていた。道は静かで、街灯もまばら。何気ない会話を楽しんでいたその時、突然車のヘッドライトが消えた。あたりは一瞬にして真っ暗になり、驚きと不安が胸をよぎった。

その次の瞬間、車が何かにぶつかり、「バーン」という大きな衝撃音が響いた。彼氏は焦った表情で、「動物でも撥ねたのかな」と言い、車を降りて確認しようとした。

しかし、彼がドアを開けたその瞬間、ヘッドライトが急に戻り、辺りを明るく照らし出した。そして、ライトに照らされた先にあったのは、動物ではなかった。

それは人の形をした、しかし明らかに人ではない何かだった。顔がぼんやりとして、体もぼやけている。まるで影のような存在が、車の前に倒れていた。

「あかぐる様…」と、瞬時に私は思った。

恐怖に凍りついた私たちの前で、車のライトが照らす範囲の外から、次々と同じような人影が現れた。物陰から、わらわらと湧いてくるように、それらはさまよいながら私たちの方に向かってきた。

彼氏はその異様な光景に恐れをなして、「やばい!」と叫び、すぐさま車に戻り、アクセルを踏んで車を猛スピードで走らせた。私たちは震えながらその場を離れ、無事に私の家まで辿り着いた。

しかし、後日、彼氏はこう言った。「あんなのが出る町に住んでいる彼女とは、正直これ以上付き合えない。」それで、彼とは別れることになった。

あの日以来、私はあかぐる様の存在を否定できなくなった。あかぐる様は、本当にさまよっている。満月の夜、今でも。