無表情の観客たち
ある日、仕事帰りにいつもの道を歩いていると、路上でギターの弾き語りをしている女性が目に入った。美しい声とギターの音色が、周囲の喧騒をかき消すかのように響いていた。
俺は足を止め、彼女の歌声に耳を傾けた。透き通るような声で、まるでプロのような上手さだった。しかも、その女性はとても綺麗で、目を引く存在感があった。あっという間に彼女の歌に引き込まれてしまい、気づけば俺はその場に立ち尽くしていた。
不思議なことに、彼女の周りには次第に聴衆が増えていった。しかし、どの人も無表情で、ただ黙って立っているだけ。拍手をするわけでも、反応を見せるわけでもなく、まるで操られているかのように動きがない。
「サクラか?」俺はそんな疑問を抱いた。上手すぎる彼女の歌に惹きつけられるのは当然かもしれないが、全員が無表情というのは気味が悪かった。
それでも歌は続き、彼女の声はますます美しく、深みを増していった。まるで心の中に直接響いてくるような感覚で、俺も含めて、そこにいる全員が彼女の歌に囚われているようだった。
そして、曲が終わると、まるでスイッチが切れたかのように、観客たちは一斉に立ち去り始めた。拍手もなく、まるで感情を失ったような顔のまま、何事もなかったかのように無言で解散していく。
「サクラかと思ったけど、なんか違う…」
そう思って立ち尽くしている俺に、彼女がちらりと視線を向けた。
俺は一歩後ずさり、その場を離れようとした。その時、彼女が再びギターを弾き始め、同じ曲を静かに歌い出した。
今度は俺の後ろに、無表情の観客がまた集まり始めていた。