リアカーを引くお爺さん
俺の地元には、ちょっとした都市伝説がある。商店街のはずれの方で、毎朝決まってリアカーを引いているお爺さんがいる。彼はいつも大量の果物を積んでいて、疲れた様子で街を歩いている。そんなお爺さんに出くわした時、絶対に気をつけなければならないことが一つだけある。
「もしお爺さんが果物を落としても、絶対に拾ってあげてはいけない。」
俺は最初、その話を友人から聞いた時、そんなバカなことがあるわけないと笑い飛ばしていた。誰かが果物を落としたら普通拾ってあげるだろう?助けるのは当たり前じゃないか、と。
そんなある日、俺は偶然そのお爺さんと出くわした。リアカーに山積みになった果物をゆっくりと運んでいた。周囲の人は皆そのお爺さんを避けるようにして通り過ぎていったが、俺は気にせずに歩いていた。
すると、お爺さんのリアカーが段差にぶつかり、大きなリンゴがゴロゴロと地面に転がり落ちた。何気なく俺はそのリンゴを拾い、お爺さんに渡そうとした瞬間、急にお爺さんがこちらを見つめ、恐ろしい形相で大声をあげた。
「盗んだな!盗もうとしただろう!」
俺は驚いてリンゴを手にしたまま固まった。お爺さんは目を真っ赤にして、俺に迫ってきた。その勢いは恐ろしく、まるで理性を失ったかのように、リンゴを奪い取るような動作をしながら、さらに大声で叫び続けた。
「何しやがる!返せ!俺の果物を盗もうとするなんて!」
周りの人々もその騒ぎに気づき、立ち止まってこちらを見つめ始めた。俺は必死に「違う!拾ってあげようとしただけだ!」と弁解しようとしたが、お爺さんはまるで聞く耳を持たず、ますます怒鳴り声を上げるばかりだった。
その場を逃げるように去った俺は、後から友人にその出来事を話した。友人は顔を青ざめて言った。
「だから言っただろう。拾ってあげちゃいけないって。あのお爺さん、昔からそうなんだよ。果物を落として誰かが拾うと、盗まれたと勘違いして大声で怒鳴り散らすんだ。」
そして彼は続けてこう言った。
「あのリアカーの果物、ほとんど誰も買ってないらしいよ。それに、何であんなに大量に果物を運んでいるのか、誰も知らないんだ。」
俺はその言葉を聞いて、もう二度とあのお爺さんには近づかないと心に決めた。