輪っかのおまじない
私は幼い頃から祖父に育てられた、いわゆる「おじいちゃん子」だった。祖父はいつも私のことを心配してくれて、友達の家に遊びに行くときは送ってくれたり、帰りが遅くなると家の外で待ってくれたりした。そんな優しい祖父だったが、一つだけ不思議なことがあった。
それは「輪っかのおまじない」と呼ばれるもので、幼い頃からずっと教え込まれていた。両手の指で輪っかを二つ作り、それを繋げてぐっと引っ張りながら、心の中で10回「大丈夫」と唱えるというものだ。「何か危ない目に遭いそうな時や、怖い時にはこのおまじないをやりなさい」と祖父はいつも言っていた。
小さい頃は素直にやっていたけど、友達の前でやるのはなんだか恥ずかしくなって、見えないようにこっそりやったりもした。
そんなある日のこと、中学生の時に部活で遅くなってしまった帰り道のことだった。暗い道を歩いていると、遠くの電信柱のところに誰かがいるのが見えた。ショートカットの綺麗な女の人が、何かこそこそと動いているようだった。最初は気にも留めなかったけど、近づくにつれて、妙に生臭い匂いが漂ってきた。
「何だろう?」と思いながらも、そのまま通り過ぎようとしたとき、横目でちらっと女の人を見てしまった。その瞬間、息が止まるかと思った。女の人は、生魚をむしゃむしゃと食べていたのだ。魚の頭が彼女の口元にぶら下がっていて、血が滴っていた。
「うわっ!」と思って目をそらした瞬間、背後から「フギー」と奇妙な声が聞こえた。全身が凍りつくような恐怖が襲いかかってきて、私は無意識のうちに祖父のおまじないを始めた。両手で輪っかを作り、心の中で「大丈夫、大丈夫、大丈夫…」と必死に唱えながら小走りで逃げた。
しばらく走った後、ふと後ろを振り返ると、一匹の猫が電信柱の影からダッシュで逃げていくのが見えた。ほっと胸をなで下ろしながら、電信柱の下をよく見ると、そこには食べかけの魚が転がっていた。
あれは本当に猫が魚を食べていたのか、あの女の人は何者だったのか…。おまじないのおかげで無事だったのかもしれないけれど、それ以来、夜道を歩くのが少し怖くなったのは言うまでもない。
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