地下アイドル「さな」と彼女を取り巻く謎の常連ファン
最近、アイドルの夢を抱いて地下アイドルとして活動を始めた「さな」は、まだ駆け出しでライブハウスの小さなステージに立つことが多かった。客は少なく、応援するファンも数人ほどだったが、その中に必ずいる人物がいた。「ゲンさん」(仮)と呼ばれる中年男性で、目立たない外見でありながら、毎回さなのライブに足を運び、最前列で見つめてくれる彼の存在は、少なからず心強かった。
最初の頃、ゲンさんの行動はさほど異常ではなかった。ライブ後の物販で声をかけ、少しだけ話して帰るだけだった。だが、ある時を境に彼の行動は次第にエスカレートし始める。
ゲンさんは、さなの手に次々とプレゼントを渡し始めた。最初は普通のものだったが、次第にそれは妙な方向へと進んでいく。例えば、さなが好きなキャラクターのグッズや食べ物を渡してくれるようになり、日に日にその頻度が増えていく。やがて、ライブのたびに手作りのお弁当や花束、手紙、写真立てなどが次々と届き、まるでさなの日常を監視しているかのように「好み」を把握しているかのようだった。
それだけならまだしも、プレゼントには次第に不気味さが増していく。ある日、プレゼントとして渡された箱の中身は、家の近所でしか売っていないはずのご当地スイーツだった。「なぜここに?」と思いながらも、さなはゲンさんに聞くこともできず、なんとなく不安を抱き始める。
ゲンさんの行動は、ついにはライブ会場だけでなく、彼女のプライベートにも及ぶようになった。ある日、帰り道で偶然にもゲンさんと遭遇したさなは驚いた。ライブ会場とはまったく別の道であり、偶然にしては距離がありすぎたのだ。しかもゲンさんは平然と「さなちゃんの近くに住んでるんだよ」と言って笑う。
それからというもの、さなは家の近所で頻繁にゲンさんの姿を見かけるようになる。スーパーや駅前のコンビニ、さらにはバス停でも姿を見かけることが増え、さなは次第に怖くなっていった。
さなは、次第にゲンさんからのプレゼントや応援を避けるようになった。だが、ゲンさんはライブの際に直接渡せないとわかると、手紙やメッセージカードを送ってくるようになった。その内容も異様で、「どこにいても見てるよ」「さなのことを誰よりも知ってるよ」といった言葉が並んでいる。
ある日、さなは怖くなって友人に相談することにしたが、友人は「やっぱりファンの人が勘違いしてるだけでしょ」と笑うだけだった。自分が被害妄想を抱いているのかと考え始めたさなは、何も言えずにそのままライブ活動を続けていくことにした。
ある日、さなの自宅ポストに奇妙な写真が差し込まれていることに気がついた。それは、さなが駅のホームに立っている写真で、明らかに誰かがこっそり撮影したものだった。怖くなったさなは、引退を決意する。
ライブ活動をやめ、できるだけ人目を避けて暮らすようになったさなは、引っ越しまでを考えるようになる。だが、ゲンさんは彼女の引退を知ってもなお、しつこく探し回っているという噂が後に広まる。
- 最後に残された手紙
さなが引退後、ふとポストに入っていた手紙を目にした。それにはこう書かれていた。
「どこへ行っても、さなちゃんのことは見つけられる。君を応援する者は、決して君を忘れない」
その言葉に、さなは震え上がるしかなかった。
















