廃屋の噂
「お前、あの廃屋知ってる?」
健太が突然言い出した。
「ああ、知ってるよ。あの裏山のほうにあるやつだろ?でも、あそこはもう誰も住んでないって聞いたぞ」
俺は興味なさそうに返したが、内心はちょっとだけ興味があった。
「いや、それがさ、昨日、夜にあの辺を通ったら…窓に誰か立ってたんだよ」
健太の声が少し震えていた。
「え?お前、ふざけてんのか?そんなの嘘に決まってるだろ」
俺は笑った。だけど、健太の顔は真剣だった。
「本当だって!お前も見に行こうよ。絶対に見えるんだって。窓からじっと外を見てる誰かがさ」
健太が俺を引っ張りながら言う。
「いや、やめとけって。こんなこと夜に行っても面白くないだろ」
俺は軽く断ったが、健太は全然引かない。
「怖いのか?俺、怖いなら一人で行くけど?」
健太の挑発に、少しムカついた。
「別に怖くねえよ。行ってやるよ。でも何もいなかったらお前がジュース奢れよ」
俺は条件をつけた。
「いいぜ。じゃあ、今夜行こう」
健太の目がキラキラしていた。まさか、本当に行くことになるとは思わなかった。
その夜、俺たちは懐中電灯を持って裏山の廃屋に向かって歩いた。道中、健太は口数が少なくなっていった。
「なあ、本当に行くのか?まだ間に合うぞ、引き返そうぜ」
俺が言うと、健太は少しだけため息をついてから口を開いた。
「お前も、見てみればわかるさ。俺は嘘なんてついてないんだ」
その言葉が、なんとなく重かった。
廃屋に着いた時、俺たちはその異様な雰囲気に気づいた。窓はボロボロで、庭には雑草が生い茂っている。
「ほら、あそこだ。窓だよ」
健太が懐中電灯を窓に向けた。だが、何も見えない。
「おい、誰もいねえじゃねえか。やっぱりお前の見間違いだろ」
俺は安心して、健太に突っ込んだ。
「いや、待て。もっと近づいてみよう」
健太は無視して、さらに窓に近づいた。俺も仕方なく後を追った。
「お前、冗談はやめろよ。こういうの、怖いんだよ…」
俺が後ろから声をかけると、健太は突然立ち止まった。
「…いる、見えるだろ?」
健太が小さな声で言った。
「え?」
俺も懐中電灯を窓に向けた。そして、見えた。
窓の向こう側、影がゆらりと動いていた。確かに誰かが中にいる。だけど、その何かは異様だった。
「やっぱり、見たんだよ。俺が見たのと同じ…だろ?」
健太が言う。
「ちょ、ちょっと待て。誰だよ、あれ…まじでヤバいって…」
俺は後ずさりし始めた。健太もその場から動けなくなっていた。
「おい、行こう、今すぐここを離れよう!」
俺が健太の腕を引っ張ろうとした瞬間、健太がポツリとつぶやいた。
「おかしい…あれ、俺たちの方、見てない…」
健太の言葉に、俺も息を飲んだ。窓の中の影は、確かに俺たちを見ていなかった。むしろ、窓越しに外を見ているのは…俺たちの背後。
「おい、健太…誰か、後ろにいるのか?」
恐る恐る問いかけると、健太の顔が真っ青になった。
「いや、嘘だろ…?」
健太が恐怖に震えながら後ろを振り返ろうとしたその瞬間、背後で足音がした。
「おい、逃げろ!!」
俺は健太の腕を強引に引っ張って、全力でその場から走り出した。
数分後、ようやく家の近くまで戻った俺たちは、ゼーゼーと息を切らしながら顔を見合わせた。
「…今の、何だったんだ?」
健太がようやく口を開いた。
「知らねえよ!でも二度とあそこには行かねえ。マジでやべえ…」
俺はもう二度と裏山の廃屋には近づかないと決心した。
「でもさ、誰が後ろにいたんだ?」
健太が真剣な顔で尋ねてきた。
「誰だっていいよ…俺はもう帰る!」
数年後、俺はこの話を健太にした。あの時、後ろに誰がいたのかあらためて聞いてみた。
「よく分かんないんだけどさ、お前の後ろにもう一人俺がいたんだよ!」
















